【跡地】Mono-(B)Log 2nd
戸倉/サキガミ が 好き勝手にやっていく blog です。 引っ越しました。
2013.02.02
ポメラでポチポチ打ってた小話が完成しましたので晒しておきます。
小説「四精霊の伝説」の後日譚の可能性のような小話です。
キリアとリィルしか出てきません。手探りな二人。若干カプ要素有るような…無いような…?
小説「四精霊の伝説」を最後まで読みきった方推奨です。(本編ネタバレ有り)
小説「四精霊の伝説」の後日譚の可能性のような小話です。
キリアとリィルしか出てきません。手探りな二人。若干カプ要素有るような…無いような…?
小説「四精霊の伝説」を最後まで読みきった方推奨です。(本編ネタバレ有り)
再びの旅の始まり(仮)
大賢者の塔で暮らすキリアの元に、ある日突然、ふらりとリィルが訪ねてきた。
本当に突然のことで、事前に手紙で等《など》といった予告なんて全くなかった。まったく、私が居なかったらどうするつもりだったのよ――と、キリアは少しだけ面白くない。それってつまり、
「いやあ、もしかしたら居るかなーと思って寄ってみただけなんだけど。気ぃ使わせちゃって悪いね」
応接室のテーブルに、リスティルが煎れてくれたスペシャルブレンドハーブティのカップが二つ。そのうちの片方に手を伸ばして、リィルは軽い調子で言う。
「まあ、だいたいは居るけどね。でも、たまーに居ないわよ。事前に知らせてくれれば良かったのに」
「だってそんなに大した用でもなかったからさ」
「用?」
私に用、あったんだ。言葉のあやなのかもしれないけれど。ちょっと意外だった。
「あー、別に用ってほどでも無いかな……」
とリィルに言い直されて、ちょっとムッとしてしまう。
「何よそれ……。まっ良いけど、貴方の『目的地』は『ここ』じゃ無いんでしょ。ここには単に寄っただけ、なのよね?」
「まあね」
リィルは意味ありげに微笑んで温かいカップに口をつけた。キリアもカップの中の赤茶色い液体に口をつけてみる。……苦い。
でも、たぶん、用件はその『目的地』のことなんだろうな、とキリアは見当をつけて。そう察してしまったことを相手に感付かれないように、平静を装ってリィルの次の言葉を待った。
「キリア」
少し、真剣な眼差しになって。リィルがキリアの名前を呼んでキリアの瞳を見つめてきた。
「なに?」
「俺……決めたんだ。やっと決めた。俺、父さんを探しに行く」
「…………」
リィルは真剣な眼差しでキリアを見つめ続けていた。その眼差しから逃れることなんて、目をそらすことなんて、できない。
「えっと……何か、わかったってこと? お父さんの手がかりか何か」
「んー、まあ、未《ま》だ決定的な手がかりってのは無いんだけど、まずは『俺が決意する』ってところがスタート地点だから」
「そうなんだ。フィルさんやお姉さんやルトさんには?」
「話してない」
リィルは即答した。
「まずは俺が父さん見つけて。それから家族五人で会うんだ」
「じゃあ、リィルはエニィルさんを探し出して会うために、ひとりで、キグリスに来たってことなのね」
「そう」
「バートとサラには?」
バートとサラ。キリアにとっても大切な、かつての旅の仲間たち。かつて、バートとリィルとサラとキリアで、乗用陸鳥《ヴェクタ》に乗って大陸各地を旅していた。旅の道中、数多くの苦しいこと、絶望的なこともあったけれど、お互い支え合いながら、助け合いながら乗り越えてきた。キリアが「彼らの為になら命もかけられる」と心から思っている仲間たちだ。
「バートとサラは、さ……」
リィルは少しだけ口ごもった。
「……こんなこと言っちゃったら怒られるかもだけど、何だか言い出しにくかったから……。二人にはピアンを出て欲しくないんだ……」
「そっか」
キリアは短く返して納得した。サラ。サラ=F=カルバラーノ姫。彼女はピアン王の一人娘だ。そしてバートには、彼女を守るため、常に彼女の傍らに居て欲しい、とは、キリアも思っていることだ。
「それで私のところに来たのね」
「そう」
リィルは頷いた。
「ごちそうさまでした」
と言って、飲み干したカップをテーブルの上に置く。そしてそのまま立ち上がる。
「……ありがと」
キリアは立ち上がったリィルを見上げて言った。
「えっ?」
リィルが怪訝そうな瞳をキリアに向ける。
「家族にもバートにもサラにも話せなかったこと……私に話してくれたから。やっと頼ってくれたのかな、って思って」
「ん……そうだね」
リィルは微笑んだ。
「迷惑だったらごめん」
「迷惑だなんてそんな」
キリアは軽く首を振って否定した。キリアにとっては、むしろその逆だったのだが。
「まあ……俺としては、さ。父さんの真実を確かめる、って決意したは良いんだけど、それが揺るがないうちに、誰かにちゃんと話しておきたかったんだ。……というわけで、お邪魔した」
「お邪魔は全然良いんだけどね。それで……まさかもう行くつもりなの?」
リィルは立ち上がって、ソファに下ろしていた鞄を肩に掛けて、今にも応接室を出ていきそうな雰囲気だった。
「うん、突然来ちゃったし、あんまり長居するわけにも」
「乗用陸鳥《ヴェクタ》で来てるのよね? どうせここまで強行軍で来てるんでしょ? 今日は塔に泊まっていけば?」
キリアはリィルとの最初の二人旅のことを思い出していた。バートとサラを探すため、ピアン首都を出てヴェクタに乗って隣街リンツに向かった。その頃からリィルは寝起きが悪くて、良く寝ないと調子が出ないと言っていた。その後の旅の間も、リィルは誰よりも早く眠り誰よりも遅く起きていた。
(最初の旅の時は……まさかこんなに深くて長い付き合いになるなんて思ってなかったわよ……)
「それと。私はついて行かなくて良いの? 貴方の旅に」
「へっ?!」
リィルはいつもより少し高い声を上げた。素で驚いているときの声だ。
(やっぱり……全く、その気はなかったってことね)
「貴方がここに来たのは、私に旅の同行をお願いするためじゃなかったの?」
「えっ、いや、ホントに泊まるつもりも、キリアを連れてくつもりもなくて。ホントにただ顔見にきた――ちょっと寄っただけなんだ」
「水臭いわねー。『仲間』でしょ」
そんな言葉がスラスラと出てきた。
「貴方の旅、手伝うわよ。バートやサラと違って、私になら頼れるんじゃない? 軽い気持ちで、って意味でね。そんなに深く考えなくて良いから。私も深入りはしないし……そう、貴方が口寂しいときの話し相手みたいな感じで、ね。私もちょうど塔での生活に飽き飽きしてたところだったし。『旅』は好きだから、いつか、行きたいと思ってたのよ」
あくまで軽く。なるべくリィルの重荷にならないような言い方で、キリアは言ってみた。どうしてもついて行きたい、絶対に連れてって、とは言わない。あとはリィルが決めれば良い。
この旅がリィルにとって重い意味を持っているということはわかっている。家族にも親友にも相談できずに、一人でここまで来たのだ。
だからこそ。自分が旅に同行することによって、リィルの負担が少しでも軽くなれば。今、彼は、相当思い詰めているに違いないから。
キリアは純粋にリィルの力になりたいと思っている。リィルには先の旅の道中で、何度も助けられたから。色々な場面で、色々な意味で。だから、その恩返しがしたかったのだ。
「キリア。……本気……なのか?」
リィルが恐る恐るといった感じで問い返してきた。
「本気だけど?」
「それは……どうもありがとう。その気持ちはすごく嬉しい。いや、でも……参ったな、そんな予定、なかったし……」
「じゃあちょっと時間あげるから考えてみて。私だって貴方がイヤというのなら無理には着いて行かないし」
と言って、キリアは立ち上がった。リィルと同じ目線の高さになって、一瞬、目を合わせる。
「というわけでやっぱり今日は泊まってって良いわよ。客室空いてると思うからリスティルに許可もらってくる」
「あ……」
リィルが何か言いかけたのが背後から聞こえてきたが、キリアは急いで廊下に出て応接室の扉を閉めた。閉めた途端……今まで大人しかった心臓が急に音を立てて活発に動き始めた。
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長年頭の中にあったアレコレを ポメラ記念に(?)文章化してみました。
続きを書く予定は今んとこ無いです…。書くなら番外編ぽい話(カレー屋の続き)のほうが先に来るかと。
大賢者の塔で暮らすキリアの元に、ある日突然、ふらりとリィルが訪ねてきた。
本当に突然のことで、事前に手紙で等《など》といった予告なんて全くなかった。まったく、私が居なかったらどうするつもりだったのよ――と、キリアは少しだけ面白くない。それってつまり、
「いやあ、もしかしたら居るかなーと思って寄ってみただけなんだけど。気ぃ使わせちゃって悪いね」
応接室のテーブルに、リスティルが煎れてくれたスペシャルブレンドハーブティのカップが二つ。そのうちの片方に手を伸ばして、リィルは軽い調子で言う。
「まあ、だいたいは居るけどね。でも、たまーに居ないわよ。事前に知らせてくれれば良かったのに」
「だってそんなに大した用でもなかったからさ」
「用?」
私に用、あったんだ。言葉のあやなのかもしれないけれど。ちょっと意外だった。
「あー、別に用ってほどでも無いかな……」
とリィルに言い直されて、ちょっとムッとしてしまう。
「何よそれ……。まっ良いけど、貴方の『目的地』は『ここ』じゃ無いんでしょ。ここには単に寄っただけ、なのよね?」
「まあね」
リィルは意味ありげに微笑んで温かいカップに口をつけた。キリアもカップの中の赤茶色い液体に口をつけてみる。……苦い。
でも、たぶん、用件はその『目的地』のことなんだろうな、とキリアは見当をつけて。そう察してしまったことを相手に感付かれないように、平静を装ってリィルの次の言葉を待った。
「キリア」
少し、真剣な眼差しになって。リィルがキリアの名前を呼んでキリアの瞳を見つめてきた。
「なに?」
「俺……決めたんだ。やっと決めた。俺、父さんを探しに行く」
「…………」
リィルは真剣な眼差しでキリアを見つめ続けていた。その眼差しから逃れることなんて、目をそらすことなんて、できない。
「えっと……何か、わかったってこと? お父さんの手がかりか何か」
「んー、まあ、未《ま》だ決定的な手がかりってのは無いんだけど、まずは『俺が決意する』ってところがスタート地点だから」
「そうなんだ。フィルさんやお姉さんやルトさんには?」
「話してない」
リィルは即答した。
「まずは俺が父さん見つけて。それから家族五人で会うんだ」
「じゃあ、リィルはエニィルさんを探し出して会うために、ひとりで、キグリスに来たってことなのね」
「そう」
「バートとサラには?」
バートとサラ。キリアにとっても大切な、かつての旅の仲間たち。かつて、バートとリィルとサラとキリアで、乗用陸鳥《ヴェクタ》に乗って大陸各地を旅していた。旅の道中、数多くの苦しいこと、絶望的なこともあったけれど、お互い支え合いながら、助け合いながら乗り越えてきた。キリアが「彼らの為になら命もかけられる」と心から思っている仲間たちだ。
「バートとサラは、さ……」
リィルは少しだけ口ごもった。
「……こんなこと言っちゃったら怒られるかもだけど、何だか言い出しにくかったから……。二人にはピアンを出て欲しくないんだ……」
「そっか」
キリアは短く返して納得した。サラ。サラ=F=カルバラーノ姫。彼女はピアン王の一人娘だ。そしてバートには、彼女を守るため、常に彼女の傍らに居て欲しい、とは、キリアも思っていることだ。
「それで私のところに来たのね」
「そう」
リィルは頷いた。
「ごちそうさまでした」
と言って、飲み干したカップをテーブルの上に置く。そしてそのまま立ち上がる。
「……ありがと」
キリアは立ち上がったリィルを見上げて言った。
「えっ?」
リィルが怪訝そうな瞳をキリアに向ける。
「家族にもバートにもサラにも話せなかったこと……私に話してくれたから。やっと頼ってくれたのかな、って思って」
「ん……そうだね」
リィルは微笑んだ。
「迷惑だったらごめん」
「迷惑だなんてそんな」
キリアは軽く首を振って否定した。キリアにとっては、むしろその逆だったのだが。
「まあ……俺としては、さ。父さんの真実を確かめる、って決意したは良いんだけど、それが揺るがないうちに、誰かにちゃんと話しておきたかったんだ。……というわけで、お邪魔した」
「お邪魔は全然良いんだけどね。それで……まさかもう行くつもりなの?」
リィルは立ち上がって、ソファに下ろしていた鞄を肩に掛けて、今にも応接室を出ていきそうな雰囲気だった。
「うん、突然来ちゃったし、あんまり長居するわけにも」
「乗用陸鳥《ヴェクタ》で来てるのよね? どうせここまで強行軍で来てるんでしょ? 今日は塔に泊まっていけば?」
キリアはリィルとの最初の二人旅のことを思い出していた。バートとサラを探すため、ピアン首都を出てヴェクタに乗って隣街リンツに向かった。その頃からリィルは寝起きが悪くて、良く寝ないと調子が出ないと言っていた。その後の旅の間も、リィルは誰よりも早く眠り誰よりも遅く起きていた。
(最初の旅の時は……まさかこんなに深くて長い付き合いになるなんて思ってなかったわよ……)
「それと。私はついて行かなくて良いの? 貴方の旅に」
「へっ?!」
リィルはいつもより少し高い声を上げた。素で驚いているときの声だ。
(やっぱり……全く、その気はなかったってことね)
「貴方がここに来たのは、私に旅の同行をお願いするためじゃなかったの?」
「えっ、いや、ホントに泊まるつもりも、キリアを連れてくつもりもなくて。ホントにただ顔見にきた――ちょっと寄っただけなんだ」
「水臭いわねー。『仲間』でしょ」
そんな言葉がスラスラと出てきた。
「貴方の旅、手伝うわよ。バートやサラと違って、私になら頼れるんじゃない? 軽い気持ちで、って意味でね。そんなに深く考えなくて良いから。私も深入りはしないし……そう、貴方が口寂しいときの話し相手みたいな感じで、ね。私もちょうど塔での生活に飽き飽きしてたところだったし。『旅』は好きだから、いつか、行きたいと思ってたのよ」
あくまで軽く。なるべくリィルの重荷にならないような言い方で、キリアは言ってみた。どうしてもついて行きたい、絶対に連れてって、とは言わない。あとはリィルが決めれば良い。
この旅がリィルにとって重い意味を持っているということはわかっている。家族にも親友にも相談できずに、一人でここまで来たのだ。
だからこそ。自分が旅に同行することによって、リィルの負担が少しでも軽くなれば。今、彼は、相当思い詰めているに違いないから。
キリアは純粋にリィルの力になりたいと思っている。リィルには先の旅の道中で、何度も助けられたから。色々な場面で、色々な意味で。だから、その恩返しがしたかったのだ。
「キリア。……本気……なのか?」
リィルが恐る恐るといった感じで問い返してきた。
「本気だけど?」
「それは……どうもありがとう。その気持ちはすごく嬉しい。いや、でも……参ったな、そんな予定、なかったし……」
「じゃあちょっと時間あげるから考えてみて。私だって貴方がイヤというのなら無理には着いて行かないし」
と言って、キリアは立ち上がった。リィルと同じ目線の高さになって、一瞬、目を合わせる。
「というわけでやっぱり今日は泊まってって良いわよ。客室空いてると思うからリスティルに許可もらってくる」
「あ……」
リィルが何か言いかけたのが背後から聞こえてきたが、キリアは急いで廊下に出て応接室の扉を閉めた。閉めた途端……今まで大人しかった心臓が急に音を立てて活発に動き始めた。
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長年頭の中にあったアレコレを ポメラ記念に(?)文章化してみました。
続きを書く予定は今んとこ無いです…。書くなら番外編ぽい話(カレー屋の続き)のほうが先に来るかと。
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