【跡地】Mono-(B)Log 2nd
戸倉/サキガミ が 好き勝手にやっていく blog です。 引っ越しました。
2011.06.17
「続き」です。3回目です。読み切り風な小話のラストです。
何のこっちゃいという方は読み飛ばして下さいね。
これにて一応一区切り。連作とかの「第1話」っぽい「読み切り」な位置づけを意識して書いたお話です。
何のこっちゃいという方は読み飛ばして下さいね。
これにて一応一区切り。連作とかの「第1話」っぽい「読み切り」な位置づけを意識して書いたお話です。
---
「エンリッジさんっ!」
アリスは急いで駆け寄った。ひどい出血量だった。かなり深く傷つけられたに違いなかった。
エンリッジが倒れている近くの地面を突き破って、黒く尖った枝のようなものが生えていた。根かもしれなかった。あの『樹』のものに違いなかった。樹も時々、枝や根を伸ばして攻撃を仕掛けてくることがある。油断した、とアリスはぎりと奥歯を噛みしめた。以前 にも油断してやられたことがあったのに。
多分、エンリッジはアリスの背後から襲いかかろうとしていた枝からアリスをかばって、倒れたのだ。自分がもう少し周囲に注意していれば、こんなことには……
アリスは腹いせにその枝を思い切り蹴りつけた。『眼』を破壊されて既に動かなくなっていたそれはあっさりと折れ、黒い細かな粒子となって砂のように崩れ落ちた。
「うー、いってえ……」
のん気な声が聞こえてきてそちらを見ると、エンリッジがゆっくりと身体を起こしているところだった。
「エンリッジさんっ、だっ、大丈夫ですか?」
「ああ……、さっきのはさすがにちょっと効いたかな。でもホラ、もう大丈夫」
エンリッジはそう言うと、何事もなかったかのように普通に立ち上がってみせた。アリスは呆気 にとられてぽかんと、エンリッジを見上げた。
「ええと……、あの、あまり動かないほうが……」
「あれ? 言ってなかったっけ。俺ってこういう体質だから」
「……そうでしたっけ」
そう言えば聞いたことがあったかもしれない……とアリスは記憶を手繰 ってみた。しかし実際に見るのは初めてだったので、うろたえてしまったのだ。
エンリッジは改めて彼の体質について話してくれた。『癒しの力』の持ち主である彼は、他人の怪我を癒すことができ、自分自身も強力な自己治癒力に守られている――と。
「だからあのくらい全然平気なんだ。そりゃあちょっとは痛いけど」
「……すみません、僕の所為で」
アリスが頭を下げると、エンリッジはその頭をくしゃくしゃと掻き撫でてきた。見上げると、エンリッジは優しく笑いかけていた。
「というわけだから、さ」
と、エンリッジは言った。
「俺は少なくともお前の足手まといにはならないし、お前が怪我したとしてもすぐに治してやれる。だから……ひとりで、生き急ぐように戦いに身を投じるのは、やめて欲しいんだ。……レティも心配してるから。危なっかしくて見てられないって」
「……姉ちゃんが……」
アリスは小さくため息をついた。彼女の名前を出されると弱い。
アリスは数週間前のある日のことを思い出していた。こんなふうに、ひとりで、平原のあちこちに立つ『樹』を破壊して回っていたときのことだった。一度だけドジって、けっこうな怪我をしてしまったことがあった。ひとりで何とか応急処置を施して、頑張って念動力研究所まで帰り着いた。そして、門のところで力尽きて倒れてしまった。
目が覚めたら、念研の医務室のベッドの上だった。エンリッジが治癒してくれたのだった。エンリッジは笑っていたけれど、レティは――『ジュリア姉ちゃん』は、怒っているような泣いているような顔をして、無言でアリスをじっと見つめていたっけ……。
「さてと……んじゃ、そろそろ帰るか」
と、エンリッジがアリスに声をかけてきた。
「首都寄って食料とか買って……ああ、そういやこのコートもう駄目だよなあ。新しいの買わねーと……」
「……は? 何言ってるんですか、エンリッジさん」
アリスはエンリッジを見上げて言った。
「え」
「まだ昼前じゃないですか。次行きましょう、次」
「え……『次』があるのか?」
「これからが本番です。午前中に二本、午後に三本、最低五本はやっつける。これが基本です」
「基本て……つうか、午後の部があるのか? 俺弁当持ってきてねーぞ」
「それは……ご愁傷さまです」
「…………。どこでそんな言葉覚えたんだ……」
はあ、とエンリッジは大きくため息をついた。
涼しい秋の風が吹いてきて、足元の背の高い草がさわさわと鳴った。アリスは元気良く、エンリッジは肩を落として、二人で並んで歩き出した。遠くで待っている乗用陸鳥 目指して。
---
あとがきっぽいの。
この小話、書いてから数年経って、まさかこういう形で表に出せる日が来るとは…。
でも、表に出せたことは良かったと思います。それでどなたかの暇つぶしにでもなれば。書いて無駄にはならなかったと。
私も新鮮な気持ちで読んで楽しめました(色々な意味で)
アリスとエンリッジが「兄弟みたい」という感想をいただきました! ありがとうございました! 確かにー。
少なくともエンリッジはアリスのことを弟みたく思ってるはずです。アリスは…どうでしょうね(笑) ヤツの本音は謎だからなあ。
これは、私が初めて、大真面目に(?)「アリス」と「エンリッジ」をメインキャラとして書いて動かしてみた小話なのですが、
・ アリスが可愛くない
・ エンリッジがかっこ良くない
ということに気付いて愕然とした執筆当時の思い出。
書いてみないと見えてこないことってありますよね…
…まあ、むしろアリスは可愛くなくて上等なのですが。
ところで この小話、いちおう「第2話」という名の続きが(少しだけ)あるのですが、それを、確か大昔に創作系ブログに載せてたような気がします。(「マリさん」が出てくる話)
今は見れないブログかな。
んで、少しだけやる気になってきたので、この「第1話」と「第2話」を、HTML化してまとめて読める場所を作ろうと思います。ってか今作ってます。
というわけで、こんなところまで読んで下さって、ありがとうございました!
こっそりと。
ツイッターのサブアカ。創作&暴走(?)用です。
http://twilog.org/sawaki_org
勝手ながら、
◯ @リプライ(tokura_saki宛でもOK)
× フォロー
ということで、よろしくお願いします。
「エンリッジさんっ!」
アリスは急いで駆け寄った。ひどい出血量だった。かなり深く傷つけられたに違いなかった。
エンリッジが倒れている近くの地面を突き破って、黒く尖った枝のようなものが生えていた。根かもしれなかった。あの『樹』のものに違いなかった。樹も時々、枝や根を伸ばして攻撃を仕掛けてくることがある。油断した、とアリスはぎりと奥歯を噛みしめた。
多分、エンリッジはアリスの背後から襲いかかろうとしていた枝からアリスをかばって、倒れたのだ。自分がもう少し周囲に注意していれば、こんなことには……
アリスは腹いせにその枝を思い切り蹴りつけた。『眼』を破壊されて既に動かなくなっていたそれはあっさりと折れ、黒い細かな粒子となって砂のように崩れ落ちた。
「うー、いってえ……」
のん気な声が聞こえてきてそちらを見ると、エンリッジがゆっくりと身体を起こしているところだった。
「エンリッジさんっ、だっ、大丈夫ですか?」
「ああ……、さっきのはさすがにちょっと効いたかな。でもホラ、もう大丈夫」
エンリッジはそう言うと、何事もなかったかのように普通に立ち上がってみせた。アリスは
「ええと……、あの、あまり動かないほうが……」
「あれ? 言ってなかったっけ。俺ってこういう体質だから」
「……そうでしたっけ」
そう言えば聞いたことがあったかもしれない……とアリスは記憶を
エンリッジは改めて彼の体質について話してくれた。『癒しの力』の持ち主である彼は、他人の怪我を癒すことができ、自分自身も強力な自己治癒力に守られている――と。
「だからあのくらい全然平気なんだ。そりゃあちょっとは痛いけど」
「……すみません、僕の所為で」
アリスが頭を下げると、エンリッジはその頭をくしゃくしゃと掻き撫でてきた。見上げると、エンリッジは優しく笑いかけていた。
「というわけだから、さ」
と、エンリッジは言った。
「俺は少なくともお前の足手まといにはならないし、お前が怪我したとしてもすぐに治してやれる。だから……ひとりで、生き急ぐように戦いに身を投じるのは、やめて欲しいんだ。……レティも心配してるから。危なっかしくて見てられないって」
「……姉ちゃんが……」
アリスは小さくため息をついた。彼女の名前を出されると弱い。
アリスは数週間前のある日のことを思い出していた。こんなふうに、ひとりで、平原のあちこちに立つ『樹』を破壊して回っていたときのことだった。一度だけドジって、けっこうな怪我をしてしまったことがあった。ひとりで何とか応急処置を施して、頑張って念動力研究所まで帰り着いた。そして、門のところで力尽きて倒れてしまった。
目が覚めたら、念研の医務室のベッドの上だった。エンリッジが治癒してくれたのだった。エンリッジは笑っていたけれど、レティは――『ジュリア姉ちゃん』は、怒っているような泣いているような顔をして、無言でアリスをじっと見つめていたっけ……。
「さてと……んじゃ、そろそろ帰るか」
と、エンリッジがアリスに声をかけてきた。
「首都寄って食料とか買って……ああ、そういやこのコートもう駄目だよなあ。新しいの買わねーと……」
「……は? 何言ってるんですか、エンリッジさん」
アリスはエンリッジを見上げて言った。
「え」
「まだ昼前じゃないですか。次行きましょう、次」
「え……『次』があるのか?」
「これからが本番です。午前中に二本、午後に三本、最低五本はやっつける。これが基本です」
「基本て……つうか、午後の部があるのか? 俺弁当持ってきてねーぞ」
「それは……ご愁傷さまです」
「…………。どこでそんな言葉覚えたんだ……」
はあ、とエンリッジは大きくため息をついた。
涼しい秋の風が吹いてきて、足元の背の高い草がさわさわと鳴った。アリスは元気良く、エンリッジは肩を落として、二人で並んで歩き出した。遠くで待っている
---
あとがきっぽいの。
この小話、書いてから数年経って、まさかこういう形で表に出せる日が来るとは…。
でも、表に出せたことは良かったと思います。それでどなたかの暇つぶしにでもなれば。書いて無駄にはならなかったと。
私も新鮮な気持ちで読んで楽しめました(色々な意味で)
アリスとエンリッジが「兄弟みたい」という感想をいただきました! ありがとうございました! 確かにー。
少なくともエンリッジはアリスのことを弟みたく思ってるはずです。アリスは…どうでしょうね(笑) ヤツの本音は謎だからなあ。
これは、私が初めて、大真面目に(?)「アリス」と「エンリッジ」をメインキャラとして書いて動かしてみた小話なのですが、
・ アリスが可愛くない
・ エンリッジがかっこ良くない
ということに気付いて愕然とした執筆当時の思い出。
書いてみないと見えてこないことってありますよね…
…まあ、むしろアリスは可愛くなくて上等なのですが。
ところで この小話、いちおう「第2話」という名の続きが(少しだけ)あるのですが、それを、確か大昔に創作系ブログに載せてたような気がします。(「マリさん」が出てくる話)
今は見れないブログかな。
んで、少しだけやる気になってきたので、この「第1話」と「第2話」を、HTML化してまとめて読める場所を作ろうと思います。ってか今作ってます。
というわけで、こんなところまで読んで下さって、ありがとうございました!
こっそりと。
ツイッターのサブアカ。創作&暴走(?)用です。
http://twilog.org/sawaki_org
勝手ながら、
◯ @リプライ(tokura_saki宛でもOK)
× フォロー
ということで、よろしくお願いします。
PR