【跡地】Mono-(B)Log 2nd
戸倉/サキガミ が 好き勝手にやっていく blog です。 引っ越しました。
2014.01.08
Personal Quest 番外編
「キリアの魔法講座 ~錯乱編~」 ← タイトル
「Personal Quest」とは。「四精霊の伝説」とは全く違う設定の、バートやリィルやキリア(やサラ)が出てくる物語です。
剣と魔法の学園ライトノベル風(?) ノリは軽いです。
※ キリアとバートが義姉弟設定で、バートの実家(料亭)で同居してます。
以前、このブログで期間限定公開していた短編(ギャグ風味)なのですが、なんと!このお話を読んで下さった 咲汰らあぷさん から、イラストをいただいてしまいました!!
△ クリック推奨です! 原寸大表示します。
メガネポニテキリアさん!!と、バートとリィルです!!
キリアさん素敵!! バーとトリィルかわいい!! 私、咲汰さんの大ファンなんですけど、自キャラを描いていただけるなんて感動…!!
咲汰さん本当にどうもありがとうございました。一生の宝にします~~!!
咲汰らあぷさんのサイト「ACILPER」です。素敵な創作サイトです♪
▽ 短編「キリアの魔法講座 ~錯乱編~」は、「続きを読む」以下に置いときます。
※ 書いたのはかなりの大昔です。
「キリアの魔法講座 ~錯乱編~」 ← タイトル
「Personal Quest」とは。「四精霊の伝説」とは全く違う設定の、バートやリィルやキリア(やサラ)が出てくる物語です。
剣と魔法の学園ライトノベル風(?) ノリは軽いです。
※ キリアとバートが義姉弟設定で、バートの実家(料亭)で同居してます。
以前、このブログで期間限定公開していた短編(ギャグ風味)なのですが、なんと!このお話を読んで下さった 咲汰らあぷさん から、イラストをいただいてしまいました!!
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メガネポニテキリアさん!!と、バートとリィルです!!
キリアさん素敵!! バーとトリィルかわいい!! 私、咲汰さんの大ファンなんですけど、自キャラを描いていただけるなんて感動…!!
咲汰さん本当にどうもありがとうございました。一生の宝にします~~!!
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▽ 短編「キリアの魔法講座 ~錯乱編~」は、「続きを読む」以下に置いときます。
※ 書いたのはかなりの大昔です。
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「キリアちゃーん」
階下から、お義母さんの声が呼んでいた。
「はーい」
書きかけのノートをぱたんと閉じて、立ち上がると、ドアを開ける。
階下を覗き込むと、お義母さんがわたしをみとめ、手にした「何か」をぶんぶんと振り回していた。
「手紙よ。『キルディアスさん』とやらから」
「え、お爺ちゃんから?」
「そう。何だか宛先人限定の書留みたいだから、わたしには外せなくてね。というわけで、飛ばすわよ」
そう言って、お義母さんは、わたしに向かって、小さな白い鳥を放ってよこした。
お義母さんの手を離れた白い鳥は、ぱたぱたと、わたしの方に向かって真っ直ぐに飛んでくる。
「有り難うございます。あ、それはそうと、料亭の方は忙しくありません? 何なら手伝いますけど?」
その「伝書鳥」を難なくキャッチしながら尋ねると、
「大丈夫よ。バイトの子も入ってるし。ゆっくり手紙でも読んでなさい」
と、ひらひらと手を振るお義母さん。
「そうですか。じゃあ人手が足りなくなったら、いつでも呼んで下さいね」
「まぁっいい子ねぇ! サボってばかりのうちのバカ息子に聞かせてやりたいわ!」
× × ×
──キルディアス……お爺ちゃん。
嬉しくも、切ない固有名詞。
わたしは自室のドアを閉めると、専用パスワードを唱え、伝書鳥から手紙を取り外した。
「お爺ちゃんから、かぁ。何だろ?」
ノートサイズの封筒を開けると、中から、3冊の黄色い表紙の冊子が出てくる。
「これは……また新作ができたのね」
表紙の文字を確認し、苦笑を浮かべていると、
どたどたどた。
二階へ駆け上がってくる足音。
──ヤツが来る。
「キリアっ!」
ばたん。
身構えていると、ノックも挨拶も何もなしに、わたしの背後のドアが乱暴に開けられた。
ほーら来た。
冊子を封筒に戻し、机の上に置きながら、わたしは面倒くさそうに振り返る。
「何よバート」
わたしはつい最近出来た、新しい義弟の名を呼んだ。
とは言っても、彼とは、「義弟」「義姉」といったような、ギクシャクした微妙な間柄ではなく、たまたま旅先で出会った気の合う(?)仲間、といったところだ。
というか、お互い全く遠慮しないだけだけれど──本当の姉弟のように。
「魔法教えてくれっ!」
バートの第一声が、それだった。
「はぁっ?」
暑いのでポニーテールにしているセミロングの髪に手をやりながら、わたしは素っ頓狂な声を上げる。
続いて、笑いがこみ上げてきた。
「く、くっくっく……どうしちゃったの? アンタが魔法?」
「笑うなっ!」
バートは顔を真っ赤にして、声を荒げた。
「だから嫌だったんだ! 俺だって迷ったんだぜ! リィルに聞くかキリアに聞くか。どっちも屈辱的だけど、どっちかってーと、長年俺のことバカにしてきたのはリィルの方だし、ってんで!」
必死で色々弁解してる彼が、妙に可愛い。
「ははは、バカにされてたワケね。別にいいじゃん、アンタには剣術があるんだから。リィルだって別に本気でバカにしてるわけじゃないと思うけど」
「いや、アイツは本気でバカにしてる!」
力一杯主張され、案外そうかも、と、わたしは考えを改めた。
「まあいいや。暇だし教えてあげるわよ、少しなら」
「マジか?」
途端に、バートの目が輝く。
「頼む! リィルには内緒でな。ヤツの目の前で特大のを一発ぶっ放して気絶させてやるんだ!」
何だか物騒なことを言って、燃えている義弟。
──ちょうどいいわ。試してやろーっと。
わたしはさっきの黄色い表紙の冊子を二冊取り出すと、そのうちの一冊を、バートの前に突きつけた。
「何だこれ?」
表紙の「魔導士適性試験 タイプーK γ版 制限時間 30分」という、色とりどりな文字を指さし、バートが尋ねる。
「知らないの? 有名な適性試験よ。似たようなのやらなかった? スクールで」
もう一冊を手近な鞄に入れながら、わたし。
「似たようなの? さーなぁ? 俺は初めから剣士志願だったから」
「ふーん、そうなの。まぁとにかく、これはそこらのスクールにばらまかれてるようなヤツとはひと味違うわよ。何てったって、お爺ちゃん直伝なんだから!」
「お爺ちゃん直伝だと、ひと味違うのか?」
「そう! わたしのお爺ちゃん、最高で最強の大賢者様な……」
手を組み合わせ、夢見る顔つきになっていたことに気付き、わたしは慌てて手をばたばたと動かして誤魔化した。
「とっ、とにかく、やって! 時間は三十分!」
机の上に転がっていた鉛筆と消しゴムを押しつけ、わたしは有無を言わさず命令する。
「そんなに長いのか!」
「これやらないことには始まらないわよ」
「くっ、これもにっくきリィルの為……」
バートはぶつぶつ呟きながら、部屋の隅の小さな机まで移動した。
しかし……椅子に腰掛け、鉛筆を握り、机の上の問題集のようなものと睨めっこしている義弟の姿は、全くもって似合わない。
「何ニヤけてるんだよ」
「え、べ、別に……。さ、準備はいい? 簡単な心理テストとか頭の体操みたいなものだから。じゃあ、スタートっ!」
腕時計をちらりと見やりながらそう言うと……わたしは鞄をひっつかんで、自室を飛び出した。
「おい! どこ行くんだ!」
ドアの向こうから、バートの声が聞こえてくる。
「ちょっとね~。三十分後には戻ってくるから!」
「おいこら!」
とたとたとた。
──ふっふっふ。
階段を早足で下りながら、わたしは、知らず知らずのうちに邪笑を浮かべていたのだった。
× × ×
わたしは、日差しの強い大通りを、たったかと駆けていた。
何てったって、タイムリミットは三十分なんだから。
今は、夏休み──とは言っても、既にスクールを卒業してしまったわたしにとっては、数年前から関係ない単語となっていたのだけれど。
とにかく、この町リンツにも、冒険者育成スクールの生徒が二人、夏の休暇を利用して帰ってきていた。
一人は、バート──わたしの義弟。
そして、もう一人が、バートの親友(悪友?)である……
「リィル!」
「ルビアン道具店」に飛び込んでそう叫ぶと、中で暇そうに店番をしていた少年が、顔を上げた。
「キリア? 何か買いに来てくれたん?」
小さな瞳を輝かせ、リィルが嬉しそうに返事を返す。
「そんなんじゃないわよ。ちょっと興味があって」
「は? 興味、って……?」
「貴方の潜在能力に。それと面白いことがあって」
わたしはニヤニヤと鞄からさっきの冊子を取り出しながら、
「バートがさぁ、魔法教えてくれって言うのよ~っ!」
「……」
リィルは、一瞬だけ目を点にし、それから、案の定、火がついたように笑い出した。
「ぶ……はっはっは……バートがぁ?」
「くっくっく……そうなのよ、笑えるでしょう?」
わたしも、暫くの間、リィルと一緒に大爆笑していた。
「はっはっは……何か悪いものでも食ったのかなぁ? キリアの作った」
「一言多いわよ」
リィルを一発殴ると、わたしはリィルにも「魔導士適性試験 タイプーK γ版」を手渡す。
「これ、制限時間三十分でやってみてくれない?」
「何これ? あ、そういやスクールでもやったけど、こんなの」
流石に、魔法使いの卵であるリィルの反応は、バートとは違っていた。
「ふっふっふ。でもこれは『特別製』なのよ。……あっと、もうこんな時間」
本当はもっとお爺ちゃんの自慢話をしたかったのだが、タイムリミットが迫っていた。
大急ぎで帰って、バートの解答をチェックしなくてはならない。
「じゃあねっ! ズルしちゃ駄目だからねっ!」
それだけ言い置いて、わたしは慌ててルビアン道具店を後にすると、一目散に、料亭「SHINING OASIS」を目指したのだった。
× × ×
バートの魔法力がゼロだというのは、本人やリィルや周囲の大人達が、口を揃えて言っていることだ。
勿論わたしも、それを感じることができるのだが、彼が「魔法を習いたい」と言っている以上、
──理屈でそれをわからせなきゃ駄目よね。
……タダの意地悪かも知れないが。
それはそうと、正直、同じ魔法使いとして、リィルの潜在能力は気になるところだ。
もし何か良いものを持っているのなら、伸ばしてあげなくては。
何だかバートに対する態度と全然違うような気もするが、それはそれだ。
「はあはあ、お待たせぇ!」
腕時計を確認しながら、わたしは息を切らしてバートの部屋に駆け込んだ。
「ちょうど三十分よね! 解答やめて、回収……」
バートの背中にそこまで言いかけて、……さすがのわたしも、ちょっと「何か違うぞ」という空気を感じ、言葉を途切れさせてしまう。
──何でバートは余裕ぶっこいて居眠りなんかしてんのよ?
「起きなさいよっ! 何? ギブアップ?」
机に突っ伏している義弟の耳元で大声を出してやると、
「起きてるけどさあ」
上半身を机から引き剥がし、困ったように振り返る、バート。
「何よ、随分余裕じゃない」
わたしとしては、ちょっと面白くない。
「だってさぁ、結構面白かったけど、やっぱ三十分ってのは長すぎだぜ」
「? ……どういうこと……?」
全身で嫌な予感を感じながら、わたしは黄色い表紙の小冊子を回収した。
おそるおそる、一ページめくる。
「……」
わたしは凍り付いた。
「……何、こ、れ……」
思わずガクガクと、その場に崩れ落ちる。
──『キリアの成長日記。5歳~7歳編』
真っ先に目に飛び込んできた文字が、それだった……。
「ちょ……まさか、読んだのっ?」
真っ赤になりながら、叫ぶわたし。
ぱらぱらとページを繰る度に、わたしの恥ずかしい過去が克明に暴かれていく……!
それがわかった途端、わたしの頭の中は、完全に真っ白になってしまった。
「おっ、お爺ちゃんもぉ……。嬉しいけど、何で今更こんな、こんな……」
お爺ちゃんの整った字は、涙が出るほど懐かしかったのだが。
もう、色々な感情がごちゃ混ぜになって、何が何だかわからなくなっていった。
「しっかし、変わった適性試験だよなー。こんなんで本当にわかるのか?」
「お爺ちゃんのバカぁっ!」
バートの言葉を耳から閉め出し、わたしは封筒を逆さにして、中身をぶちまける。
中からは、一冊の冊子と、小さな便箋が出てきた。
『親愛なるキリア。新しい生活は順調か? それはそうと、良いものが出てきたので送る。他人には興味を持たれないように、表紙はダミーだ。何て気が利く儂……』
「余っ計なことを……」
わたしは唇をかみしめた。
「でも良かった。わかっててやってたのか。これがお爺ちゃんのボケの始まりだったらどうしようかと思った……」
と、少し安堵してみたりもする。
しかし、
「おい」
バートの声で、わたしは現実に引き戻された。
「で、俺、どうなんだ? 見込みありそうか?」
「えっ…… わ、わかるわけないでしょ!」
「だって、魔導士適性試験って」
「解答もしてないあんたの潜在能力なんか知るか!」
「じゃあ、何答えりゃいーんだよっ?」
バートにしては、至極もっともな質問だった。
「う……」
一瞬、言葉に詰まってしまう。
「か、感想文よ! とある少女の記録を読んで、感じたことを四百字以内で述べなさい!」
苦し紛れにヤケクソで言い放った言葉で、ますます墓穴を掘ってしまうわたしだった……。
「何だよ、最初からそう言ってくれれば……」
バートの台詞を聞きながら、わたしはもう一つ、思い出す。
「あーっ!」
「今度は何だよ?」
「もう一つ回収しなきゃ! んもー信じられないっ!」
「わけわっかんねーよ、お前……」
どたどたと部屋を出ていくわたしの後ろで、バートが呟くのが聞こえた。
× × ×
かくして、数日後、キルディアスの元には、二種類の感想文が届けられることとなったのだった。
キリアの魔法講座の行方は──不明だった。
「キリアちゃーん」
階下から、お義母さんの声が呼んでいた。
「はーい」
書きかけのノートをぱたんと閉じて、立ち上がると、ドアを開ける。
階下を覗き込むと、お義母さんがわたしをみとめ、手にした「何か」をぶんぶんと振り回していた。
「手紙よ。『キルディアスさん』とやらから」
「え、お爺ちゃんから?」
「そう。何だか宛先人限定の書留みたいだから、わたしには外せなくてね。というわけで、飛ばすわよ」
そう言って、お義母さんは、わたしに向かって、小さな白い鳥を放ってよこした。
お義母さんの手を離れた白い鳥は、ぱたぱたと、わたしの方に向かって真っ直ぐに飛んでくる。
「有り難うございます。あ、それはそうと、料亭の方は忙しくありません? 何なら手伝いますけど?」
その「伝書鳥」を難なくキャッチしながら尋ねると、
「大丈夫よ。バイトの子も入ってるし。ゆっくり手紙でも読んでなさい」
と、ひらひらと手を振るお義母さん。
「そうですか。じゃあ人手が足りなくなったら、いつでも呼んで下さいね」
「まぁっいい子ねぇ! サボってばかりのうちのバカ息子に聞かせてやりたいわ!」
× × ×
──キルディアス……お爺ちゃん。
嬉しくも、切ない固有名詞。
わたしは自室のドアを閉めると、専用パスワードを唱え、伝書鳥から手紙を取り外した。
「お爺ちゃんから、かぁ。何だろ?」
ノートサイズの封筒を開けると、中から、3冊の黄色い表紙の冊子が出てくる。
「これは……また新作ができたのね」
表紙の文字を確認し、苦笑を浮かべていると、
どたどたどた。
二階へ駆け上がってくる足音。
──ヤツが来る。
「キリアっ!」
ばたん。
身構えていると、ノックも挨拶も何もなしに、わたしの背後のドアが乱暴に開けられた。
ほーら来た。
冊子を封筒に戻し、机の上に置きながら、わたしは面倒くさそうに振り返る。
「何よバート」
わたしはつい最近出来た、新しい義弟の名を呼んだ。
とは言っても、彼とは、「義弟」「義姉」といったような、ギクシャクした微妙な間柄ではなく、たまたま旅先で出会った気の合う(?)仲間、といったところだ。
というか、お互い全く遠慮しないだけだけれど──本当の姉弟のように。
「魔法教えてくれっ!」
バートの第一声が、それだった。
「はぁっ?」
暑いのでポニーテールにしているセミロングの髪に手をやりながら、わたしは素っ頓狂な声を上げる。
続いて、笑いがこみ上げてきた。
「く、くっくっく……どうしちゃったの? アンタが魔法?」
「笑うなっ!」
バートは顔を真っ赤にして、声を荒げた。
「だから嫌だったんだ! 俺だって迷ったんだぜ! リィルに聞くかキリアに聞くか。どっちも屈辱的だけど、どっちかってーと、長年俺のことバカにしてきたのはリィルの方だし、ってんで!」
必死で色々弁解してる彼が、妙に可愛い。
「ははは、バカにされてたワケね。別にいいじゃん、アンタには剣術があるんだから。リィルだって別に本気でバカにしてるわけじゃないと思うけど」
「いや、アイツは本気でバカにしてる!」
力一杯主張され、案外そうかも、と、わたしは考えを改めた。
「まあいいや。暇だし教えてあげるわよ、少しなら」
「マジか?」
途端に、バートの目が輝く。
「頼む! リィルには内緒でな。ヤツの目の前で特大のを一発ぶっ放して気絶させてやるんだ!」
何だか物騒なことを言って、燃えている義弟。
──ちょうどいいわ。試してやろーっと。
わたしはさっきの黄色い表紙の冊子を二冊取り出すと、そのうちの一冊を、バートの前に突きつけた。
「何だこれ?」
表紙の「魔導士適性試験 タイプーK γ版 制限時間 30分」という、色とりどりな文字を指さし、バートが尋ねる。
「知らないの? 有名な適性試験よ。似たようなのやらなかった? スクールで」
もう一冊を手近な鞄に入れながら、わたし。
「似たようなの? さーなぁ? 俺は初めから剣士志願だったから」
「ふーん、そうなの。まぁとにかく、これはそこらのスクールにばらまかれてるようなヤツとはひと味違うわよ。何てったって、お爺ちゃん直伝なんだから!」
「お爺ちゃん直伝だと、ひと味違うのか?」
「そう! わたしのお爺ちゃん、最高で最強の大賢者様な……」
手を組み合わせ、夢見る顔つきになっていたことに気付き、わたしは慌てて手をばたばたと動かして誤魔化した。
「とっ、とにかく、やって! 時間は三十分!」
机の上に転がっていた鉛筆と消しゴムを押しつけ、わたしは有無を言わさず命令する。
「そんなに長いのか!」
「これやらないことには始まらないわよ」
「くっ、これもにっくきリィルの為……」
バートはぶつぶつ呟きながら、部屋の隅の小さな机まで移動した。
しかし……椅子に腰掛け、鉛筆を握り、机の上の問題集のようなものと睨めっこしている義弟の姿は、全くもって似合わない。
「何ニヤけてるんだよ」
「え、べ、別に……。さ、準備はいい? 簡単な心理テストとか頭の体操みたいなものだから。じゃあ、スタートっ!」
腕時計をちらりと見やりながらそう言うと……わたしは鞄をひっつかんで、自室を飛び出した。
「おい! どこ行くんだ!」
ドアの向こうから、バートの声が聞こえてくる。
「ちょっとね~。三十分後には戻ってくるから!」
「おいこら!」
とたとたとた。
──ふっふっふ。
階段を早足で下りながら、わたしは、知らず知らずのうちに邪笑を浮かべていたのだった。
× × ×
わたしは、日差しの強い大通りを、たったかと駆けていた。
何てったって、タイムリミットは三十分なんだから。
今は、夏休み──とは言っても、既にスクールを卒業してしまったわたしにとっては、数年前から関係ない単語となっていたのだけれど。
とにかく、この町リンツにも、冒険者育成スクールの生徒が二人、夏の休暇を利用して帰ってきていた。
一人は、バート──わたしの義弟。
そして、もう一人が、バートの親友(悪友?)である……
「リィル!」
「ルビアン道具店」に飛び込んでそう叫ぶと、中で暇そうに店番をしていた少年が、顔を上げた。
「キリア? 何か買いに来てくれたん?」
小さな瞳を輝かせ、リィルが嬉しそうに返事を返す。
「そんなんじゃないわよ。ちょっと興味があって」
「は? 興味、って……?」
「貴方の潜在能力に。それと面白いことがあって」
わたしはニヤニヤと鞄からさっきの冊子を取り出しながら、
「バートがさぁ、魔法教えてくれって言うのよ~っ!」
「……」
リィルは、一瞬だけ目を点にし、それから、案の定、火がついたように笑い出した。
「ぶ……はっはっは……バートがぁ?」
「くっくっく……そうなのよ、笑えるでしょう?」
わたしも、暫くの間、リィルと一緒に大爆笑していた。
「はっはっは……何か悪いものでも食ったのかなぁ? キリアの作った」
「一言多いわよ」
リィルを一発殴ると、わたしはリィルにも「魔導士適性試験 タイプーK γ版」を手渡す。
「これ、制限時間三十分でやってみてくれない?」
「何これ? あ、そういやスクールでもやったけど、こんなの」
流石に、魔法使いの卵であるリィルの反応は、バートとは違っていた。
「ふっふっふ。でもこれは『特別製』なのよ。……あっと、もうこんな時間」
本当はもっとお爺ちゃんの自慢話をしたかったのだが、タイムリミットが迫っていた。
大急ぎで帰って、バートの解答をチェックしなくてはならない。
「じゃあねっ! ズルしちゃ駄目だからねっ!」
それだけ言い置いて、わたしは慌ててルビアン道具店を後にすると、一目散に、料亭「SHINING OASIS」を目指したのだった。
× × ×
バートの魔法力がゼロだというのは、本人やリィルや周囲の大人達が、口を揃えて言っていることだ。
勿論わたしも、それを感じることができるのだが、彼が「魔法を習いたい」と言っている以上、
──理屈でそれをわからせなきゃ駄目よね。
……タダの意地悪かも知れないが。
それはそうと、正直、同じ魔法使いとして、リィルの潜在能力は気になるところだ。
もし何か良いものを持っているのなら、伸ばしてあげなくては。
何だかバートに対する態度と全然違うような気もするが、それはそれだ。
「はあはあ、お待たせぇ!」
腕時計を確認しながら、わたしは息を切らしてバートの部屋に駆け込んだ。
「ちょうど三十分よね! 解答やめて、回収……」
バートの背中にそこまで言いかけて、……さすがのわたしも、ちょっと「何か違うぞ」という空気を感じ、言葉を途切れさせてしまう。
──何でバートは余裕ぶっこいて居眠りなんかしてんのよ?
「起きなさいよっ! 何? ギブアップ?」
机に突っ伏している義弟の耳元で大声を出してやると、
「起きてるけどさあ」
上半身を机から引き剥がし、困ったように振り返る、バート。
「何よ、随分余裕じゃない」
わたしとしては、ちょっと面白くない。
「だってさぁ、結構面白かったけど、やっぱ三十分ってのは長すぎだぜ」
「? ……どういうこと……?」
全身で嫌な予感を感じながら、わたしは黄色い表紙の小冊子を回収した。
おそるおそる、一ページめくる。
「……」
わたしは凍り付いた。
「……何、こ、れ……」
思わずガクガクと、その場に崩れ落ちる。
──『キリアの成長日記。5歳~7歳編』
真っ先に目に飛び込んできた文字が、それだった……。
「ちょ……まさか、読んだのっ?」
真っ赤になりながら、叫ぶわたし。
ぱらぱらとページを繰る度に、わたしの恥ずかしい過去が克明に暴かれていく……!
それがわかった途端、わたしの頭の中は、完全に真っ白になってしまった。
「おっ、お爺ちゃんもぉ……。嬉しいけど、何で今更こんな、こんな……」
お爺ちゃんの整った字は、涙が出るほど懐かしかったのだが。
もう、色々な感情がごちゃ混ぜになって、何が何だかわからなくなっていった。
「しっかし、変わった適性試験だよなー。こんなんで本当にわかるのか?」
「お爺ちゃんのバカぁっ!」
バートの言葉を耳から閉め出し、わたしは封筒を逆さにして、中身をぶちまける。
中からは、一冊の冊子と、小さな便箋が出てきた。
『親愛なるキリア。新しい生活は順調か? それはそうと、良いものが出てきたので送る。他人には興味を持たれないように、表紙はダミーだ。何て気が利く儂……』
「余っ計なことを……」
わたしは唇をかみしめた。
「でも良かった。わかっててやってたのか。これがお爺ちゃんのボケの始まりだったらどうしようかと思った……」
と、少し安堵してみたりもする。
しかし、
「おい」
バートの声で、わたしは現実に引き戻された。
「で、俺、どうなんだ? 見込みありそうか?」
「えっ…… わ、わかるわけないでしょ!」
「だって、魔導士適性試験って」
「解答もしてないあんたの潜在能力なんか知るか!」
「じゃあ、何答えりゃいーんだよっ?」
バートにしては、至極もっともな質問だった。
「う……」
一瞬、言葉に詰まってしまう。
「か、感想文よ! とある少女の記録を読んで、感じたことを四百字以内で述べなさい!」
苦し紛れにヤケクソで言い放った言葉で、ますます墓穴を掘ってしまうわたしだった……。
「何だよ、最初からそう言ってくれれば……」
バートの台詞を聞きながら、わたしはもう一つ、思い出す。
「あーっ!」
「今度は何だよ?」
「もう一つ回収しなきゃ! んもー信じられないっ!」
「わけわっかんねーよ、お前……」
どたどたと部屋を出ていくわたしの後ろで、バートが呟くのが聞こえた。
× × ×
かくして、数日後、キルディアスの元には、二種類の感想文が届けられることとなったのだった。
キリアの魔法講座の行方は──不明だった。
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